インドネシアDOTSプロジェクト開始

 

 この度結核予防本部では、インドネシア結核予防会と共同で、インドネシアDOTSプロジェクトを開始することになりました。

 今回はインドネシアの結核の現状、プロジェクトの概要、昨年12月に行われた視察の報告をお伝えします。

 

インドネシアの結核

 

結核研究所国際協カ部

企画調査科長 須知雅史

◇インドネシアという国

 インドネシア共和国の国土は、南北1900キロメートル、東西5100キロメートルにわたり、面積にして日本の約5倍、大小約1万4千の島からなる。人口は約2億人で、全人口の6割以上が国土面積の7%にすぎないジャワ島に集中している。国民の大部分はマレー系で、公用語はインドネシア語であるが、約300の種族から成り立ち、主な言語だけでも25種を数える。石油を中心とした天然資源が豊富な大国である。

◇インドネシアの結核

 インドネシアにおいて、結核は大きな健康問題となっている。1992年に行われた健康に関する全国世帯調査と国連の死亡推計を総合すると、死因の第2位、全国で年間17万5千人が肺結核により死亡し、その大部分が15〜64歳の生産年齢に属すると推定されている。

 また、94年に行われた政府とWHOによる合同評価によれば、過去の実態調査、ツ反サーベイランスの結果などから、塗抹陽性肺結核罹患率は人ロ10万対105と推定され、実数で20万人以上の患者が発生していることになる。

◇結核対策

 第2次世界大戦後、大都市を中心に胸部疾患クリニックが設置され、治療を中心に結核対策活動が開始されていたが、69年、国家結核対策計画(NTP)が保健省伝染病環境保健総局のもとに開始された。しかし、乳幼児に対するBCG接種、塗抹陽性患者に対する無料治療などの活動は、全国の保健所には拡大されず、大きな成果を上げることができなかった。

 しかし、94年のWHOとの合同評価を契機に、インドネシア政府は結核を保健分野の緊急課題と位置づけ、従来の対策指針をWHOの推奨するDOTS(直接監視下短期化学療法)に改訂し、その全国展開を押し進めている。さらに1996年には、保健次官を委員長として国家結核対策委員会が形成され、伝染病環境保健総局と結核対策に関係する保健省内の他の部局、地域保健総局(保健所ならびに胸部疾患クリニックを統括)、医療総局(公立病院を統括)、食品薬品管理総局(薬剤供給を統括)そして国立中央検査所(全国の検査室を統括)との、積極的な調整を目指すこととなった。

 1996年には、全国の308郡のうち177の郡に、それぞれ部分的ではあるが新しい指針が展開され、人口にして約4千万人(全人口の約20%)がカバーされていると推定される。しかし、新塗抹陽性肺結核患者の報告数は1万人あまりと先の推定患者数に比し(カバー率を加味しても)かなり低い。ただし、治療成績は良好で、治療開始後2ヵ月あるいは3ヵ月後の菌陰転化率は84%、コホート分析による治療率は73%、完了率19%となっている。

◇今後

 このように政府の取り組みが明確になったインドネシアの結核対策であるが、まだまだ課題も多い。先に述べたように保健省内の様々な部局の調整、広大な国土に散らばる膨大な数の保健所の要員の研修とその巡回指導、報告の遅れ、塗抹検査の精度、服薬の監視を患者家族に任せているDOTS、などである。今後は、より強力な体制による新しい指針の拡大と、その質を保つための巡回指導体制の確立など、これら課題の解決に向けた取り組みが期待される。

 

インドネシアDOTSブロジェクト

 

 本会では、1997年11月よりインドネシア結核予防会(以下PPTI)と協力して、結核対策共同モデルプロジェクト「インドネシアにおけるDOTS戦略実施についての共同プロジェクト」を始めました。ジャカルタ市内のPPTIの診療所2つを対象に、NTPによるDOTS戦略を実施し、新たな結核患者の治癒率を向上させることを目標としています。

 このプロジェクトは94・96年に同国保健省と共催で開催した結核予防セミナーの交流等を通じて検討されてきたもので、NGOの共同事業という点では93年から継続中のネパール結核予防会とのプロジェクトに続いて2つめとなります。

 本会からは年2回ほど専門家を派遣して技術的な支援を行い、また資金的な側面からPPTIが行う現地活動に協力していきます。

 
服薬する患者
 対象地域の実情として、10月の予備調査では、誓約書制度(無料診療を提供する条件として、「治療中断した場合は、それまでに使った薬代を自己負担する」ということを約束する内容で、患者本人のほか家族、コミュニテイ代表者、地区の公務員の4者がサインした誓約書を提出)を取り入れ、診療所では90%の治癒率を実現していると伝えられました。しかし治療方式はNTPによるものであっても、PPTI独自の記録・報告様式を使用しているため信頼性がかなり低いと考えられ、この様式を整えることがプロジェクトの最優先事項となりました。具体的な活動としては、関係者に対する研修会の開催を中心に、地域の健康教育と教材の提供、患者の通院のための支援、治療脱落を防ぐための患者訪問などを行う予定です。なお、インドネシアでのDOTSは、第三者ではなく患者家族が服薬監視者という点に特徴があります。

       

 11月の事業契約に次いで12月には早速DOTS導入のための研修がPPTI本部で開催されました。この研修会には本会から3名の役職員が参加し、本会島尾会長は講師として演壇に立ち、DOTSの必要性を訴えました。4月以降には、当初の対象者とした50名程度の塗抹陽性新患の評価が行われる予定です。

 当プロジェクトの成功には国からの支援が欠かせませんが、今回、薬剤を無料供給することと、ある一定の成果が見られた場合は、それを継続するとの見解が示され、取り組みに積極的な国の姿勢がうかがえました。またPPTI役員を兼務する結核対策担当や結核対策関係者の中に多くの結核研究所元研修生の存在することなど人的面からも、事業の円滑な運営に期待が持てます。

 インドネシアではNTPが確立されていても、末端までの医療機関がこの方針に従った治療を提供しているわけではありません。プロジェクトの成功が、対象地域の患者のためにはもちろん、インドネシアにおけるNTPの拡大に役立つ適切なモデルとなることが望まれます。

壁に貼り出された登録表 昨年12月に行われたDOTS研修会。
島尾会長が講演。

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