★はじめに
結核予防会では、1997年11月からインドネシアの結核予防会(PPTI)と協力して、ジャカルタ市内のPPTIの2つの診療所(ジャカルタ呼吸器センター:喘息など結核以外の疾患を中心として扱う、主として裕福な人々を対象にした設備の整った施設。バラデワクリニック:比較的貧しい地区に位置し、多くの結核患者を治療)において、塗抹陽性肺結核新患者の治癒率の向上を目的として、DOTSを取り入れた結核対策モデルプロジェクトを実施している(プロジェクト概要及びインドネシアの結核の現状については、複十字誌260号参照)。
現在までに98年3月までの治療成績のコホート分析結果が出ており、また98年9月に本会職員が定期評価・指導に訪れたので、進捗状況を併せて報告したい。
★成績
97年12月から98年9月までに受け入れ、治療を開始した塗抹陽性肺結核新患者は累計
| 図1・図2 |
 |
234名。この中で、DOTS導入のための研修が終了し、プロジェクト開始の準備が整ったと言える98年1月〜3月に治療を開始した患者の治療成績について報告したい。
まず、患者の年齢分布を見ると(図1)、15歳から34歳の若年者層が特に多く、いわゆるインドネシア経済を支える生産年齢の人々に集中していると言える。
2ヵ月後の菌陰性化率は95.5%、6ヵ月の治癒率は89.4%に達し(図2)、WHO目標である85%を越えたよい成績である。
★DOTSの評価
DOTSを導入する上で、まず新たに行う必要のあった大きな課題は、患者の治療経過を確認すること、また結核対策を行う上で欠かせない治療の記録・報告様式の整備であった。これに関しては、国の結核対策と同じ標準様式が使用されるようになり、治療成績もコホート分析で提出され、その素早い対応に感嘆した。ただし、バラデワクリニックにおいては、患者の名前を壁に貼られた大きな紙にずらりと並べ、そこに治療経過も書き込んでいくという方式をとっており、それが成績の分析にも利用されていた。本来なら正式な様式へすぐ統一を図るべきところである。しかしながら、このクリニックは各種ドナーから寄付を受けて薬代に充てるという方法をとっていて、クリニック所長は結核対策如何よりも、多くの患者の薬を確保するために、本会を含めたドナーへのアピールに興味を持っており、この表も多分にこの目的のために使用しているようであった。このため、この意識を急に変革するよう要請することは感情のひずみを生むおそれがあると考え、また、よい成績が出ていることもあり、強く廃止を唱えることはさけた。
 |
来所して薬を飲む患者
(バラデワクリニック) |
WHOが定義するDOTSは5つの要素よりなるが、その一つが患者が規則正しく薬を飲むことを確約するための服薬の監視である。インドネシア国家結核対策のDOTSは、WHOの勧告と少々違う。つまり、WHOでは「ヘルスワーカーや訓練されたボランティアが行う」というところを、ここでは家族が主体となって担っている。ただし監視者は15歳以上と制約され、プロジェクトにおいては、患者来所時に同伴して、クリニックの職員から患者と一緒に教育を受けることになっている。また、インドネシアでは家族そして地域の結びつきが強いということである。そこで、これらの点とよい成績が出ていることを重視して、プロジェクトではインドネシアの地域の特性に沿ったDOTSとして認識している。
抗結核薬については、当初の政府との約束どおり85%の治癒率が出せたため、国側からの供給が続くことになった。経済事情等により万が一それが不可能になった場合も、本会のプロジェクト負担金によってまかなう予定である。なお、プロジェクトは国の結核対策プログラムによっては正式にはカバーされていないが、前述のように薬は政府から支給されている。
★中断を防ぐ方法
以上が、DOTSとして、主に補う必要のあった点だが、このほかに患者が治療を中断しないために、治療継続の契約と通院へのインセンティブ(報奨)という2つの方策をとっている。前者はプロジェクト前から行われていたユニークな方法で、治療開始時に「治療の薬代は無料だが、中断した場合には、患者はそれまでに使った薬代を支払わなければならない」という契約を、患者、服薬監視者、隣組の代表、村長、医師、地域の政府代表者との間で結んでいる。この契約書のおかげで脱落がほとんどないと関係者は確信を持っている。後者は、来所時に交通費と簡単な食事を用意することである。
また、患者訪問、記録・報告記載などの職員の活動にも、インセンティブとして若干の賃金が支払われている。
★今後の課題
本来なら、治療成績は塗抹検査の精度管理が整って初めて信憑性がある。技術面では精度管理が今年度中に実施される予定になっている。また、運営面では、PPTI側の能力は高く積極的であり、加えてプロジェクトの成功に欠かせない現地の調整の役割は、厚生省の結核対策担当者であり同時にPPTI役員であるイラワン医師(結核研究所国際研修卒業生)が巧みにこなしている。
以上のように成績、運営ともにプロジェクトは順調に進んでいるといえる。今後の成功に向けては、現地で活動にあたるPPTI側の期待を裏切らないよう本会が技術力と誠意をもって対応し、信頼関係を築いていきたい。
国際協力室 久保田登子
|