はじめに
平成9年2月8日より、島尾会長をはじめとする4名が、ネパール王国のルンビニヘルスセンターを訪れ、評価をしてきた結核対策事業について報告します。 当事業は、ルンビニ結核対策モデルプロジェクト(通称ルンビニ・プロジェクト)という名称のもと、平成5年12月より3年計画で、 ネパール王国ルパンディ県のルンビニヘルスポスト(当時)管内を対象地域として、新たに発見された結核患者を高率に治癒させることを 目的としたネパール結核予防会(NATA)と本会の共同モデル結核対策事業です。本会の従来の国際協力は、ほとんどが国や国際機関を通じてのものですが、 本会独自の事業として計画、実行されたのが、このプロジェクトです。平成5年から年1〜2回、評価のため同国を訪問していますが、 今回が通算で7回目の評価となりました。
変革について
今回特筆すべきことは、プロジェクトの性格が大きく変化した点です。ネパール王国の結核対策に同プロジェクトが組み入れられ、 DOTS(ドッツ)という直接監視下における短期化学療法が開始され、治療が塗抹陽性例に集中、ルンビニヘルツポストがヘルスセンターに 昇格、同センターに常勤医師が着任する等の大変革がありました。3年間を終えたプロジェクトは、今後は国立結核センター(NTC)との連携のもと、 新たに第2期目が開始されます。
これまでの結果
今までのプロジェクトで治療された375症例のコホートによる解析結果を報告します。WHOの提唱するコホート解析は4半期ごとの集計ですが、 当プロジェクトがネパール王国結核対策に組み入れられたこととその後のNTCの報告との整合性も考え、ネパール暦に合わせて、第1期(ネパール暦4月1日〜 7月末日)、第2期(同8月1日〜11月末日)の4ヶ月ごとでコホート集団を作りました。
資料1
全症例(375名)
年齢分布表資料2
塗抹陽性例の
コホート解析結果資料3
塗抹陽性
全症例経過資料4
塗抹陽性例の
コホート解析結果資料5
塗抹陰性
全症例経過
資料1は、全症例(375例)の性別、年齢分布を示します。男女とも15〜45歳の若い生産年齢層に患者が多く見られました。治療を始めた患者の中で 塗抹陽性の新患の比率は、初年度の23.1%から73.1%まで経年的に上昇しており、第3年度から塗抹陽性の新患に治療の重点が移ってきており、適切な対象を選定して治療するようになったと 考えられます。
塗抹陽性の新患に対する処方で、WHOの提唱する強力な4剤併用(再治療例は5剤)の用いられる割合は、初年度0%でしたが、 2年前から90%を超え、この処方が定着してきたと考えられます。
塗抹陽性のコホート解析(資料2)では、治療を含む治療完了率は初年度66.7%、2年度83.4%と順調に伸びてきましたが、 3年度新患中で治療終了した例(39)では、治療完了率は66.7%に低下しました。これは塗抹陽性例中で、 治療失敗例と治療脱落例比率が増加したためと考えられます。2ヶ月ごとの菌陰性化率も、4剤の導入後上昇しましたが、治療完了率と同様に 3年度は82.1%に減少しました。今後の対策として資料3と考え合わせると、DOTSのさらなる強化や在宅訪問等の活用で治療脱落例を 減らしたり、早期発見し治療することにより死亡例の減少対策を講ずれば、治療完了率は80%台に近づくと考えられます。今回コホート解析が 着手できない3年度の第3期の集団に、死亡13例、治療脱落15例があり、やはり治療脱落の防止と、ほかの疾患による死亡も含まれるでしょうが、 早期に発見して治療することで死亡例を減らすことが治療完了率の改善に役立つと考えられました。
資料4の塗抹陽性例のコホート解析の結果では、当初、全症例中、塗抹陰性の比率が初年度で69.2%、2年度44.8%と高率でしたが、3年度以後 塗抹陽性例に治療が集中し、その数は減少しました。塗抹陽性例と同様、3年度以後、治療完了率は治療脱落例の増加により減少しました。 資料5を見ると、治療中の例を除き、全体としての治療完了率は79.3%でした。塗抹陰性例も脱落例を減少させれば85%台に近づくものと 思われます。
肺外結核例の経過ではすべて新患で、83.3%の治療完了率でした。
おわりに
今回筆者は、海外医療協力や国際会議「結核と非政府機関−これからの千年間の調整と戦略」の実際をつぶさに垣間見ることができ、 その重要性、困難さを痛感した次第です。また島尾会長より機会あるごとに種々の有益な薫陶を随行の3名(特に筆者)は賜り、その点においても 有意義な海外出張でした。