治癒率85%まであと一歩
第一健康相談所診療部長 増山 英則
◆現状
ルンビニプロジェクトは、結核予防会本部とネパール国結核予防会(以下NATA)の結核対策共同モデルプロジェクトとして、インド国境にほど近いルパンディ郡内のルンビニヘルスセンター(以下ルンビニHC)に、カルマハワとスリプラ両ヘルスポスト(以下HP)を加えた、国の保健施設3ヵ所で実施されています。NGOであるNATAのルパンディ支部が調整の役割を担い、現場ではプロジェクトで雇い上げた検査技師1名、DOTSコーディネーター1名、ホームビジター4名が国の結核治療活動を支えています。
このプロジェクトは開始してから丸5年が過ぎ、1996年からは国の方針に合わせてDOTSも導入されています。去る3月27日〜4月2日、本プロジェクトの技術評価を行いましたので、ここに報告いたします。
◆治療成績
97年11月半ば〜98年3月半ばの4ヵ月間(ネパールにおける結核患者の記録報告期間)に登録された新喀痰塗抹陽性患者30名の治療結果は、治癒25名(83.3%)、死亡2名、転出2名、治療失敗1名となっています。転出を除けば治癒率は89.3%となり、WHOの目標である85%の治癒率を達成しており、成績は良好といえます。また、98年3月半ば〜7月半ばの新喀痰塗抹陽性患者45名の治療開始2ヵ月後の菌陰性化率は71.1%(32名)、7月半ば〜11月半ばの新喀痰塗抹陽性患者21名の菌陰性化率は71.4%(15名)でした。
今まで本会がデータをもらって解析していた4ヵ月ごとのコホート分析は、DOTSコーディネーターが自ら取り組むようになり、NATA側の実行力が強化されたのを実感しました。また、昨年からホームビジターを2名増員しており、それぞれ日誌をつけ、脱落患者のフォローもきちんと行っているようです。
カルマハワHPでDOTSコーディネーターに話を聞く
筆者。後ろに立つのが話を聞いた患者さん。ルンビニHCでのDOTS
◆方向性
本プロジェクト運営の助言を行うため、中央レベルの調整会議とともに、プロジェクトが行われているルンビニ地区でも現地調整会議が開かれることになっていますが、残念ながらこれまで現地の調整会議は活発ではありませんでした。そこで、今後は政府により4ヵ月ごとに行われる郡レベルの成績評価結核対策実務担当者会議の後、必ず現地調整会議を開催することを提案し、同意されました。こうすることによりプロジェクトの改善点が明確化されるとともに、定期的な協議を行うことで国との協力体制と現地のイニシアチブが高まると期待されます。
また、健康教育の分野では、99年3月24日の世界結核デーの際にNATAが結核予防のためのストリートドラマを各地で催すなど活発に動き始めており、コミュニティーを巻き込んだ形で活性化していくことが望まれます。
今後の本プロジェクトの進め方としては、よい成績が得られていることからも、よりNGOらしさを生かした方法で行っていくことが求められると思われます。数字的な治療成績の評価だけでなく、患者一人一人の背景を把握し、プロジェクトがより身近に感じられるように紹介していくことが、アドボカシーの面からも重要であることが、調整会議の際にも強調されました。
今後、隣接するバイラワ市へのプロジェクト拡大の可能性も考えられますが、都市でのDOTSの難しさ(脱落が多い)、インドからの患者流入の影響なども考慮し、慎重に対応していく必要があります。
患者さんとのつかの間の交流
当プロジェクトが行われているカルマハワHPは、のどかな田園の中にあります。畑沿いの小道を民家や小学校の前を通りながら20分ほど歩き、砂ぼこりにまみれて到着したHPは、DOTSを行うための薬のストックと水のタンク、テーブルがあるだけの簡素な建物。医師はおらず、保健婦とホームビジターなどが任務に当たっています。ここで現在約20名の患者さんが治療を受けています。
この道中、おじいさんの患者さんに会い、話を聞くことができました。この患者さんは1度治療脱落しましたが、すぐに再治療を開始し、だんだん回復しつつあるということで、「これからは毎日治療に通う」と力強く話してくれました。
帰り道、この患者さんは私たちの荷物を重いからと持ってくれ、ネパール南部の激しい日差しを遮るため、持っていた傘を貸してくれました。
私たちのプロジェクトがこんなところに役立っているんだと実感させてくれるひとときでした。
編集部