「結核に対する宣戦布告」を受けて
1999年7月23・24日/ジャカルタ
1999年7月23・24日の2日間にわたって、インドネシア共和国の首都ジャカルタ市において結核予防会とインドネシア保健省共催、日本財団後援による全国結核セミナーを開催した。アジア地域における結核蔓延状況の改善を目指し、結核予防会が諸関係者に対策方法を学ぶ機会を提供するセミナー・ワークショップ事業は、1999年で6年目。そのうち、結核が国民の死因第3位を占め公衆衛生上大きな問題である当国でのセミナー実施は、1994・96年に次いで3回目となる。
*結核に対する「宣戦布告」*
インドネシアでは1969年に国家結核対策計画(以下NTP)を策定して保健所を中心にその浸透を図ったが、普及率は悪く、大きな改善は見られなかった。そこで保健省は1994年4月にWHOと合同評価を行い、1995年NTPを改正、WHOの推奨するDOTSを導入し、1996年には国家結核対策委員会を結成するなど早急な見直しを行った。結核予防会は1994年8月の第1回結核予防セミナーで医師対象にNTP改正の講習を行い、さらに1996年12月に地方担当者へのNTP浸透とDOTS普及を目的とした第2回セミナーを開催して、当国の結核対策の改革に寄与してきた(複十字誌240・254号参照)。
しかし、インドネシアでは全結核の推定発生数は58万3千人(1999年版WHO報告書)と、インド、中国に次ぐ世界の結核高負担国で、患者発見率も低く、DOTSをはじめとした対策実施の遅れが常に指摘されてきた。この事態を重く見た保健省は、1998年11月「 War against TB (結核に対する戦い)」を宣言、今年の世界結核デーには2000年より「 NTP Integrated Movement」と題した新NTPを始動させると発表した。これは専門委員会設置による中央体制の強化、保健所のNTP実施徹底に留まらず、民間医療機関やNGOと連携し、2004年までにDOTSを全医療機関の70%に採用させ、WHOの指標である塗抹陽性患者発見率70%以上、治療成功率85%以上を獲得して罹患率の改善を目指すものである。本セミナーは新体制の施行を控え、その周知と各機関のDOTS戦略へのコミットメントの促進を目的として開催された。*セミナー*
セミナーは2日間で分野別に7つのセッションに分けられ、その都度質疑応答を行う形式がとられた。参加者は政府・省庁関係者、全国27州の結核対策担当官、国家結核対策委員会・技術顧問委員会委員、全国の民間医療機関などから270名程度。講師は国内の政府関係者や医師など13人に加え、結核予防会の青木副会長、結核研究所国際協力部国際研修科藤木総括主任IUATLD(国際結核肺疾患予防連合)のアイトカレッド医師の3名が海外講師として講義を行った。
初日は保健大臣を迎えて開講式が行われた後、世界の結核対策の状況が概観された。まずアイトカレッド医師が世界の結核の現状とDOTSの重要性について講義し、DOTSは治療効率・費用効率ともに優れた施策だが、インドネシアを含む結核高負担国ではその拡大が遅れていると指摘。WHO目標値の達成には、さらに貧困対策や政情安定を含めた各方面からの参画が急務だと述べた。続いて青木副会長が日本における国際協力の経験について講演、JICAプロジェクトなどの成果を挙げながら、対策の成功にはNTPに従った周到な計画と政策決定者の強い意志が重要だと述べた。当日他には感染症対策・保健衛生局長が新体制について説明したほか、国家結核対策委員会の役割や薬剤供給管理などの講義が行われた。
2日目の内容は結核菌検査関連、医師会、看護協会や病院の対策指針とNGOの役割である。質疑応答が特に活発であった結核菌検査のセッションでは、藤木総括主任がDOTS実施における喀痰塗抹検査と精度管理の重要性について述べ、国立中央検査所が当国の菌検査体制について解説した。また、今後その役割が期待されるNGOに関しては、アイトカレッド医師がIUATLDの活動を解説、続いて、結核予防会が共同してDOTSプロジェクトを行うインドネシア結核予防会(以下PPTI)会長が活動報告をし、ソーシャル・モービライゼーション班長としての抱負を述べた。この後、普及用教材例として今春PPTIによってインドネシア語版が制作されたビデオ「DOTSー世界に蔓延する結核制圧の鍵」(沢井製薬企画、島尾本会会長監修)が上映された。
新体制の説明に、熱心にメモを取る参加者。
2日間を通じて意見交換も活発に行われ、セミナーは盛況のうちに終了した。なお、本セミナーには多くのマスコミ取材があり、会場の模様は夕方のニュース番組や翌日の朝刊紙面の多くに掲載された。*おわりに*
今年初めのジャカルタ市内の暴動を受け、今回は現地担当者と6月の選挙動向を見ながら企画が進められた。頻繁に連絡を取り合う中で常に感じたのは、当セミナーで新NTPの重要性を各方面に確実に認識させたいと努力する政府の姿勢である。
しかし、インドネシアは人口約2億432万人、1万3677の島々から成り、さらに近年は経済危機や紛争による政情不安を抱えて、結核対策を全国で円滑に進めるには、非常に厳しい状況にある。また、新体制下における各機関の指針は出揃ったようだが、講義内容を見る限りでは具体的な実施要領に欠いており、来年度の実施までに模索されるべき課題は多い。
セミナーに参加した結核研究所国際研修の卒業生、
青木副会長(左から6人目)、保健大臣(中央)、
アイトカレッド医師(右から6人目)を囲んで。
現地では国際研修、セミナー、プロジェクトなど本会事業に対する信頼は厚く、今回も講義の合間に、結核予防会講師に対して多くの参加者から要員の研修や精度管理に関する助言が求められた。NGOなど諸民間団体の活躍が新体制下で期待されている中で、本会も共同プロジェクト内で要員の研修、精度管理の指導を強化するなど、今後も当国のDOTS実施サポートしていきたい。本部普及課国際協力室
柴土真季