はじめに
平成12年7月30日より8月4日まで、モンゴルの首都ウランバートル市で、日本財団の後援を得て、第4回結核予防セミナーを開催 し、また同国の結核対策を視察しましたので報告します。セミナーでの講義は、結核予防会青木会長、結核研究所森所長、同国際協力部国際研修科藤木総括主任、モンゴル国立結核センター(NTC)ツォクト所長、WHO結核対策アドバイザー(中国)のチン医師、JICA短期派遣専門家工藤知子氏及び筆者で行われ、事務局として、結核予防会増田普及課員、西尾経理課員が同行しました。
モンゴルの結核の状況
モンゴルは人口250万人、日本より広大な大地に極めて低い人口密度で人々が住んでいます。首都であるウランバートル市には60万人、総人口の約四分の一が集まっています。全国は21のアイマック(県に相当)に分かれ、各々に結核病院が設けられています。さらに ウランバートル市内は、九つのディストリクト(区に相当)に分かれ、各区の保健所内に地区結核診療所が設けられています。1991年以前はソ連流の胸部間接写真を主とした患者発見等の結核対策をとっていましたが、共産主義の崩壊以後、特に結研の研修を終えたツォクト所長が帰国後、DOTの導入、菌検査の重視、WHO方式での患者管理など、国際的に認められた結核対策を推進し、多大な成果を上げつつあります。結核予防会も、平成6年以後、今回を含め計4回にわたりセミナーを同国で開催し、同国の結核対策の技術向上に貢献してきました。同国の結核罹患率は人口10万対133(99年)と高率ですが、新患中97%がDOTで治療されており、塗抹陽性例は68.1%を占めています。治療成功率86%の値はWHOの目標を越えるまでになっています。塗抹陽性新患や重症結核等は、2カ月間入院治療をし、その後結核診療所でデイリーDOT(月〜金曜は毎日通院で服薬、土、日曜は自宅で服薬)をしています。日本と異なり、20〜30歳代が患者の50%程度を占めています。
セミナー
8月1、2日にわたり、モンゴル外務省大会議室において、参加者約50名(各アイマックの結核担当医師、NTC職員ら)を得てセミナーは開催されました。
前3回のセミナーを踏まえて、今回は応用編といった内容でした。森所長による結核対策の総論に続き、青木会長、NTCツォクト所長により、日本、モンゴルの結核対策の現状と問題点が論じられました。次いでWHOのチン医師よりDOTの今後の改善の方向性、筆者が塗抹陰性肺結核の診断(同国では結核対策が進み、塗抹陰性で発見される率が半分近くになってきたため)、患者の受診の遅れの問題、患者の治療への積極的参加方策(アドヒアランス)について講義をし、初日は終了しました。2日目は多剤耐性結核、菌検査、肺外結核の診断やアドボカシーの問題点が各担当講師より論じられました。英語からモンゴル語への逐語通訳を伴ったため相当時間がかかりましたが、参加者は大変熱心にノートをとり、質問もそれなりにあって、全員の結核対策への熱意が伝わってくるセミナーでした。
病室の様子
治療カードをチェック
モンゴル結核対策視察
ツォクト所長によると、以前は結核患者の90%が塗抹陽性で発見されたが、最近は50%で塗抹陰性の患者が発見されるようになり、 NTCの菌検査でも24.7%が塗抹陰性培養陽性とのことで、その治療が今後の同国結核対策上、重要な点と考えられました。また最 近の実状として、囚人の結核も問題視されています。15刑務所、6000人の囚人より244人の結核患者が出ており、日本でも見られる閉鎖された社会集団における集団感染と似た状況となっています。囚人の中には結核を発病すると病院に移され(仮出所)、食事等待遇がよくなるため、他の結核患者の痰を飲んでみたり、治療薬を服用後吐き出すなどして刑務所へ戻されることを阻止することがあると言います。
NTCに隣接するスフバートル(モンゴル建国者の名)地区結核診療所を7月31日には、視察しました。当地区の全人口は8万人で、170人の結核患者を治療中。当診療所には、医師、看護婦が2人ずつおり、DOTを施行しています。治療薬の包装は1日ごとヒートパックにされており、赤の錠剤がヒドラジドとリファンピシンの合剤、黄がエタンブトール、白がピラジナマイドとなっていました。
また、8月3日には、ウランバートル市内最大のバヤンゴル地区で人口11万9千人をカバーしている、バヤンゴル地区結核診療所(ウランバートル中心街より車で30分程度の距離)を視察しました。現在195人の結核患者が登録治療中で、うち95人が塗抹陽性、60人が肺外結核、191人がDOTを施行されていました。7月分の治療成功率は90%(四半期ごとに治療成績はまとめているが、その他、月ごとの集計もしている)とのことでした。当診療所は3人の医師、1人の検査技師、数名の看護婦により運営されていました。
WHOの結核患者登録台帳、治療カード、菌検査記録台帳もよく整備されていました。治療カードにはWHOの規定以外に接触者追跡の記録、診断の遅れ、受診の遅れの項目も付け加えられており、患者教育用のリーフレットも用意され、医師の説明が行われた場合には治療カードにそのチェックも入れられるよう整備されていました。患者は一番遠い所で10km離れた地域よりバスで通院していましたが、バス代のインセンティブは施行されていませんでした。
DOTをしていて来所しないときは、看護婦が訪問して薬を飲ませるとのことです。また、各薬剤の服薬量は体重によって変えており、薬はDANIDA(デンマーク国際開発協力)の援助により供給されているため、ビタミンBを含めて結核治療に関して薬剤代は一銭も請求していないとのことでした。菌検査も初回、治療2カ月後、5カ月後とも3回検痰をすることのことでした。
終わりに
NTCスタッフの尽力で大きな進展を遂げているモンゴルの結核対策ですが、特にX線機材などの、病院、診療所の設備面の問題、いまだに胸部外科治療がかなりの頻度で行われているなどの臨床面の問題が見られました。着実に成果を上げてきているモンゴルの結核 対策に対し、これからも結核予防会が何らかの形で協力を継続していくことが肝要と考えられました。